激動の花業界を生き抜く秘訣
目先の利益より、将来の利益を見据えて

2025年1月取材

第1回

有限会社 花物語 代表取締役

下賀 健史しもが けんじさん

Profile

福岡県福岡市出身。
高校を卒業後、2年間の会社勤めを経て、実家の生花店「花物語」の経営に携わる。37年間で、当時の2店舗から6店舗へと拡大。
福岡花商組合理事長、福岡県花商団体連合会会長、九州生花商団体連合会会長、花職向上委員会HEADインストラクター等を務め、福岡県の花業界に大きく貢献している。

下賀さんは福岡の花業界では誰もが知る有名人ですが、最初の1歩を教えてください。

 元々両親が花屋を経営していて、僕も小さい頃から家業を継ぎたいと思っていました。「社長」という響きに憧れていたというのもありますが、花が好きだったんです。振り返ってみると、昔から親に帝王学を学ばされていた気もします。たとえばリーダーシップのとり方など、ふとした時に思い当たることがありますね。高校を卒業して、最初の2年はサラリーマン生活を送りました。そこで「組織の中で仕事をする」というのはどのようなことかを学びました。

 僕は花屋は継ぎたかったんですが、親と一緒に仕事をするということにものすごく抵抗があって、22歳の時に自分で支店を出しました。それが第1歩となった春日店です。もちろん、お客様がたくさん来てくださるお店は目指してましたけど、自分が花を楽しみたいという気持ちが大きかったですね。自分が楽しんで、いろんなお客様に喜んでもらえるっていうのが大事。その気持ちは今も変わっていません。

6店舗に拡大するまでには、紆余曲折があったと思いますが、いかがでしたか?

  今、展開している6店舗は、特色が全部違います。春日店をオープンさせた頃はちょうどバブル経済の時期で、僕の中では量販店を目指していたんです。安くでお花を提供したくて、ものすごい時間と労力をかけて働いていました。軌道に乗って新しい店舗を出すごとに、内装などにもこだわるようになりました。

実は、これまでに潰してしまったお店が2店舗あるんです。でも、僕は失敗を失敗と思わない。その経験をもとに、場所やお客様の層、流行や店構え、売り上げ予測などを考えて、どうしたらお客様に喜んでいただけるかを入念に練るようになりました。昔から経営や哲学の本を読んでいますが、そこから学ぶことも多いです。本は読み続けなければダメですね。
令和4年には6店舗目の千早店をオープンさせましたが、当時、東区にカフェを併設した花屋を作りたいと考えていたんです。千早駅に隣接したベストな場所を見つけ、内装はトレンドを取り入れて、天井からドライフラワーを吊り下げるスタイルにしました。お花で喜んでいただいて、カフェでも楽しんでいただいています。

コロナの影響や後継者問題、花の需要の激減など、様々な要因で廃業されるお店も多い中、どのような信念で経営してこられたのでしょうか。

 目の前の利益だけを追ってはダメ、何十年も利益を上げ続けるには、将来的な利益を考えなければいけないと思っています。
たとえば、自分がどんなに専門的な知識を持っていても、一人で作れる売り上げは限られています。そこで、僕は経営に徹することにして、接客や販売はスタッフに全部任せ、店舗を増やしてきました。うちのスタッフは全員、正社員なんです。まずはスタッフに喜んで働いてほしいから。花の値段も各店舗のスタッフに決めてもらっています。自分でお金を稼ぐという意識を持ち、どれくらいの売り上げがあれば自分たちの給料やボーナスに反映されるかということを考えて働かないとダメだと思うんです。

お店づくりに関しては、入った時に「わぁっ」と思えること。スタッフには「明るく、元気に、愛想よく」ということをよく話しています。お客様に喜んでいただくためには、「いつ来ても花がたくさんある」「価格的にも買いやすい」ということのほかに、買って帰った後に「花が長持ちするかどうか」が大事です。長持ちするかどうかは、生産者さんの前処理、花屋での後処理もポイントになりますが、質の良い花をセリで見極めることが一番重要です。ここは37年間やってきた僕の腕の見せどころですね。

「花」によってつながれたご縁には、どのようなものがありますか?

 僕は人づきあいが苦手なんです。でも、経営者としてはブログやSNSもひと通り経験しないといけないと思って、勉強のためにブログを書いたり、Facebookやインスタ、twitter(現在のX)に投稿したりしているうちに、全国の花に関係ある方々とのつながりが出来てきました。花キューピットの全国大会や各種コンテストなどで実際に会って、交流を深めています。
 組合理事長とか、連合会会長などの役職は、自分が花業界の恩恵を受けてきたと思っているので引き受けています。組合事業の手伝いをしてきた中で、先輩方のいろいろな話を聞いて、自分の中で消化し、経営につなげてきた部分もあります。だからこそ、今、自分の立場で考えなければならないのは、生産者、花市場、花屋といった、業界全体の売り上げをいかに上げるかということです。そのためには、人に嫌われるようなことも声を大にして発言するようにしています。本来は、人と話すのも嫌いで、どちらかというと一人の方が好きな人間なんですけどね(笑)。

下賀さんにとって「花」とは

 花は生活の一部であり、花屋は僕にとっての「遊び場」ですね。スタッフより、お客様より、自分が一番楽しんでいると思います。花を見ても楽しい、お客様が買ってくださるのも嬉しい、作品を作るのも面白い。
僕は博多っ子なので、熱しやすく冷めやすいってところはあるんですが、作品作りは続けています。卒業しようと思ったらいつでも卒業できますが、そうしたら進化が止まると思うんです。コンテストにも出品して、他の方の作品を見て刺激を受けて学ばせてもらっています。これからも自分自身、成長し続けたいですね。

すきな「花」は?

答えられないですよ(笑)、どの花も好きだから。敢えて好きな花の色をあげるとすれば、アプリコットカラーです。黄色からオレンジに変わりゆく、明るくて可愛らしい色味が良いですね。大切な人に贈るとすれば、季節の花。今なら、アプリコットカラーのチューリップでしょうか。(取材時は1月下旬)

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